2018年1月25日木曜日

椎間板ヘルニア・椎間板症


椎骨と椎骨の間には、椎間板があります。椎間板の中心には、水分を多く含む「髄核」があります。髄核の周囲は「繊維輪」が同心円状に取り巻いています。

椎間板は、脊柱の自由な運動を可能にしながら、かかる衝撃を吸収しています。

負担の大きい椎間板は、繊維輪が障害を受けやすくなります。たとえば、重い物を持つような動作が誘因となり、椎間板が損傷されます。

障害を受けた繊維輪の亀裂から、髄核中の物質がしみ出てきた状態が椎間板ヘルニアです。

腰部椎間板ヘルニアの症状は、「激しい腰痛」、障害された神経が支配する「下肢への症状」、特徴的な「その他の所見」に分けることができます。



1.激しい腰痛
  • 急性の椎間板ヘルニアは、いわゆるギックリ腰として発症します。
  • ヘルニアの突出が軽度で、神経根に達していないときは、腰痛のみを訴えます。
  • ただし、損傷した椎間板が腫れて、知覚神経の豊富な後縦靭帯を強く刺激するので、激しい腰痛がおこります。
  • 激痛のため、からだを動かすことも難しくなります。
  • 痛みは動作によって増悪し、安静によって軽減します。
  • けれども炎症が強いときは、安静にしていても痛みを感じます。
  • 自発痛や夜間痛があって睡眠を妨げられることもあります。
  • 咳やクシャミによって、放散痛が誘発されます。


2.下肢への症状
  • 大半の椎間板ヘルニアは、坐骨神経根が刺激されて、下肢への放散痛を訴えるといいます。
  • ヘルニアが、神経根と軽度に接触するとき、殿部にも痛みを訴えます。
  • ヘルニアと神経根の接触が広くなると、疼痛域は大腿部の後側・外側から、下腿部の後側・外側・前外側、ときには踵や足背にまで拡大します。
  • さらに大きなヘルニアが、長期にわたり神経根を圧迫していると、痛みとともにシビレが現れます。
  • 足の感覚異常(触った感じが左右で違う)、筋力低下(かかと立ち・つま先立ちが、左右別々では難しい)があれば、強く圧迫する大きなヘルニアの存在が示唆されます。
  • 重度のヘルニアが馬尾神経まで刺激すると、歩行時の異常、虫が走るようなゾワゾワ感、灼熱感、冷感などが両下肢に出現します。


3.その他の所見
  • 下肢を伸展したまま30~40°挙上するなかで、殿部から下肢後側に痛みの再現や増悪をみます。
  • アキレス腱反射が、減弱または消失します。
  • 痛みにより、坐骨神経痛性の側弯がみられるかもしれません。
  • 主には、第5腰神経・第1仙骨神経が支配する領域に、知覚の異常、筋力の低下、深部反射の減弱がみられます。
  • 複数の支配領域にまたがり症状を認めるときは、大きなヘルニアの存在が示唆されます。


〈注〉

当治療院がおこなうベッドサイドでの検査では、ヘルニアの存在は分かりません。椎間板に痛みの主な原因があると推察するなら、それは椎間板症とした方が適切でしょう。

しかし、多くの患者さんが、椎間板に問題がある腰痛を椎間板ヘルニアと理解されています。そこで、椎間板に問題がある腰痛を一括りにして、「椎間板ヘルニア」という言葉を用いて説明します。



ヘルニアの種類

椎間板ヘルニアの程度(大きさ)は、「膨隆」と「脱出」に分けられます。


1.椎間板膨隆

線維輪の一部に断裂があり、椎間板が後側方に膨れ上がっている状態です。ただし髄核は、線維輪内にとどまっています。この状態が「椎間板膨隆」です。腫れた椎間板が、知覚神経の豊富な後縦靭帯を強く刺激するので、激しい腰痛がおこります。


2.椎間板脱出

線維輪の後方が完全に断裂して、髄核が線維輪の外にしみ出ている状態です。この状態が「椎間板脱出」です。脱出した髄核が、椎間孔で坐骨神経根を刺激すると、腰痛よりも下肢への痛みやシビレを強く感じます。

さらに大きな髄核が中心で脱出すると、脊柱管で馬尾神経まで絞扼します。すると、坐骨神経痛とともに、馬尾神経症状も併発するようになります。



好発年齢

椎間板の中心にある髄核は、水分が豊富にあります。ところが髄核は、加齢変化により水分量が減少して、徐々に柔軟性を失っていきます。

腰部椎間板ヘルニアは、20~40歳代の青壮年期に好発します。そのなかで、20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代と続きます。

とくに、活動性の高い男性に多い

若年層の坐骨神経痛は、椎間板ヘルニアの可能性が疑われます。高齢者の坐骨神経痛は、まずは変形性腰椎症や脊柱管狭窄症など、他の疾患を考慮すべきかもしれません。



好発部位

椎間板の後方では、ヘルニアが出ないように後縦靭帯が保護しています。ところが、腰椎の下部にいくにつれて、後縦靭帯の幅が細くなります。腰椎の下部は、動的な負荷が大きいので、とくに椎間板の障害が好発します。


1.ヘルニアがおこる高位の確率は、
  • 第4腰椎-第5腰椎間で、約50%
  • 第5腰椎-第1仙骨間で、約20%
下部腰椎で生じたヘルニアは、後縦靭帯をよけるよう片側に、後外側方向への突出が多くなります。


2.各高位のヘルニアが刺激する神経根は、
  • 第4腰椎-第5腰椎間のヘルニアは、第5腰神経を圧迫する。
  • 第5腰椎-第1仙骨(仙椎)間のヘルニアは、第1仙骨神経を圧迫する。
神経根で圧迫刺激を受けると、その神経が支配する領域に痛み、シビレの症状が現れます。


3.各神経の支配領域は、
  • 第4腰神経は、膝からすねあたりに症状が出る。
  • 第5腰神経は、太ももの後ろから、下腿の外側と足の甲に症状が出る。まれに股関節の前面あたりに痛みの出る方もおられる。
  • 第1仙骨神経は、太ももの後ろからふくらはぎ、足の外側から足裏に症状が出る。
一般には、第5腰神経の障害が、腰椎でのヘルニアの過半数を占めることになります。しかし、第4腰椎-第5腰椎間のヘルニアが大きくなると、第4腰神経と第5腰神経の両方を圧迫するかもしれません。



痛みの原因

椎間板ヘルニアには、「ズッキーンとした電撃痛」と「慢性化した痛みとシビレ」があります。


1.ズッキーンとした電撃痛

末梢神経は、単純に圧迫されると、支配領域に麻痺とシビレが生じます。まさに正座をして「足がしびれた」状態です。しかし、坐骨神経痛のようなズッキーンとした電撃痛はおこりません。


椎間板ヘルニアが坐骨神経痛をおこすまでには、以下の経過をたどります。

→ 椎間板ヘルニアにより、坐骨神経根および周囲組織が圧迫される

→ 圧迫されることで、神経根への血液循環が阻害される

→ 炎症による浮腫が、さらに神経根への圧迫刺激を強める

→ 圧迫刺激を受け続け、緊張下におかれると、やがて神経根に炎症が発生する

→ ヘルニアによる圧迫刺激と炎症性物質による侵害刺激を受ける

→ 神経根は痛みに過敏な状態となる

→ その結果、小さな刺激にも反応して、坐骨神経の経路に沿って電撃痛が走るようになる



2.慢性化した痛みとシビレ

椎間板ヘルニアは時間の経過とともに、しみ出した髄核物質の水分量が減少して萎縮し、瘢痕化して神経根への圧力を失っていきます。


しかし、次のような変化により痛みが緩和しづらくなります。

→ 神経根炎が長期にわたると、周辺組織に繊維化や癒着がおこる

→ 繊維化や癒着による固着やねじれにより、動作に伴って過剰な刺激が発せられる

→ 重苦しく鈍い腰痛が、常時まとわりつくようになる

→ 侵害刺激がつくる過剰な緊張は、神経根および周囲組織の血液循環を阻害する

→ 循環障害が慢性化することで、組織の変性が助長される

→ 神経根周辺組織の繊維化、癒着、変性が重なり、神経根への炎症が持続される

→ 椎間板ヘルニアによる圧力がなくなっても、坐骨神経痛が生じるようになる



病院の診療を優先するとき

次のような病態では、当治療院での施術の前に、整形外科等の病院での治療を優先すべきと考えています。



1.受傷直後のギックリ腰のとき

腰部椎間板ヘルニアを疑う患者さんの大半が、いわゆるギックリ腰として施術を希望されます。たとえば、椎間板ヘルニアは働き盛りの年齢層に好発します。そのため、安静にして休んでいられないから、少しでも早く痛みを和らげてほしいといわれます。カイロプラクテック・マニピュレーション療法には、様々な理解がありますが、以下の理由から、当治療院での施術は「炎症が強い急性期の痛みには不適当、もしくは禁忌」と考えております。

1) 激しい痛みが発症するまでには、小さな椎間板への障害が繰り返し生じている

2) 弱化した椎間板は、小さな刺激にでも炎症を強くしたり損傷を深くしたりする危険が大きい

3) 寝返りもままならない、歩くのもつらい状態では、十分な施療をおこなうことができない

「病気の重症度や職種によって一概にはいえませんが、1ヵ月から数ヵ月間も仕事を休んで治療を継続しなければならない、というような例も決して少なくないはずです。この場合、患者が勤め人であるなら、会社へ提出する診断書が必要になり」ますが、治療院では「休業を保証する診断書の提出が不可能である」と、患者さんの立場からいわれます(代田ほか,1994)。

これを教訓として当治療院では、椎間板ヘルニアを疑うようなギックリ腰の人には、まずは病院での治療を第一義のすることをお勧めしています。



2.異なる症状があるとき

次のような症状がある場合は、単純な椎間板ヘルニアではないかもしれません。そのため、当治療院の施療を受ける前には、かかりつけの医師に相談してみてください。そこで、特別な異常がないと診断された場合は、安心して施療をおまかせいただきたく存じます。

1) 安静にしていても激しい痛みがある

2) 夜間の痛みでよく眠れない

3) 症状が増悪の一途をたどっている

4) 歩いていると下肢が痛くなり、歩けなくなる

5) 足がとても冷える、ゾワゾワした感じがする

6) からだの動きで痛みの増悪をみない、いつも痛い

7) もっぱら安静に、一番楽にしていても痛い



文献

代田文彦,出端昭男,松本丈明(1994)鍼灸不適応疾患の鑑別と対策-66症例から学ぶ.医道の日本.p.187.


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